禅宗物語
トップ > 禅宗物語 > 39 すべて禅である

すべて禅である

  無相禅師(むそうぜんじ)は禅道の造詣が深い人です。ある行脚僧(あんぎゃそう<行脚して修行する僧>)がそれを聞いて、無相禅師のところに行って禅法に関して論争しようとしました。あいにく、その時、無相禅師は外出していませんでした。侍者(じしゃ<そばにつかえる者>)の沙弥(しゃみ<若い僧>)が代わりに挨拶に出てきました。「師父(しふ<先生>)は留守ですが、何か問題がありましたら、私に聞いてください。」と話しました。

  行脚僧は「あなたは若いので無理だ。」と言いました。

  侍者は「私をばかにしないでください!」と答えました。

  それを聞いて、行脚僧は指で小さい丸を描いて、前に向かって指し出しました。すると、侍者は両手を広げて大きい丸を描きました。行脚僧はまた一本の指をさし出しましたが、侍者は今度は五本の指をさし出しました。行脚僧は直ちに三本をさし出しましたが、侍者は指で目を指しました。

  とっさに、行脚僧は恐縮にひざまずいて、慌てて三回も拝んだ後、逃げ出すかのように離れていきました。実は行脚僧は次のように思っていました。「彼は私の問題についてよくわかっている。そればかりか、答えも上手にできた。私は指で小さい丸を描き、『あなたは度量がどのくらいあるか?』と聞いた。彼は大きい丸を描いて「海ほどだ!」と答えた。そこで、私は「自分自身はどうだ?」と質問したが、彼は五本の指を出し、「五戒(仏教の五つのいましめ)くらいの程度だ!」と答えた。私は三本の指を出し、「三界(三つの迷いの世界)はどうだ?」と聞いた。すると彼は目を指して、「目にある!」と教えた。侍者でさえこんな優れた人だから、無相禅師の修行はどれほど優れているか想像もできない。さっさと逃げたほうがいい。」

  まもなく、無相禅師が寺に帰って帰ました。侍者は禅師にその経緯を報告しました。そして、「師父、どうしてあの行脚僧はわたしの俗家が餅を売る家であることを知っているのですか。彼は指で小さい丸を描いて、『俗家の餅はこんな小さいか。』と私に聞きました。わたしも手振りで答えることにしました。手を広げて大きい丸形をつくり、『こんな大きいですよ!』と教えました。すると彼は『一枚一文か?』と聞きました。私は『一枚五文ですよ!』と答えました。後で彼は三本の指を出して、『三文でもいいか?』と聞きました。私は、『欲が深すぎるよ!』と思って、目を指で指しました。その時、彼は逃げ出すように離れていきました。不思議なことですね。」と侍者はぶつぶつ言いました。

  禅師はそれを聞いて、「すべては禅だな。分かるなあ?」と感慨深そうに言いました。

  侍者は五里霧中の中にいるように迷いに迷っていました。

 

4801 人数