禅宗物語
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私もあなたのために

  あるとき、佛光禅師(ぶっこうぜんじ)は克契禅僧(こくけいぜんそう)に会って「時間の経つのは早いなあ。あなたがここに禅を修行に来てからもう十二年だが、どうして一度も私に道を聞かなかったのか」と聞きました。

 克契禅僧は「毎日お忙しそうですので、お邪魔をしてはいけないと思っていましたから。」と答えまし

 その後、時間がたちまち過ぎて、また三年ちました。ある日、佛光禅師は道端で克契禅僧に会いました。「参禅修道(座禅をして道を修めること)について何か疑問はないか。なぜ私に聞かなかったのか」と言いました。

 克契禅僧は「お忙しそうでしたので、とても声を掛けることができませんでしたから。」と答えました。

 一年後、克契禅僧が佛光禅師の禅室の外を通っている時、佛光禅師は中からこう言いました、「おい、中に入りなさい。今日は忙しくないから、ゆっくり禅を話そう。」と呼びかけました。

 克契禅僧はすぐ合掌して、「お忙しいです。お時間をいただけません。」と返事をしました。

佛光禅師は、「克契禅僧が謙遜すぎて、自分自身の遠慮を乗り越えることができないのではないか、このまま行けば、いくら参禅しても悟ることができない」と思い、克契禅僧に対して自ら行動する必要があると感じました。

ある日、もう一度二人が出会った時、「道を学び、座禅を行うのには絶え間なく問答することが必要だ。なぜ一度も私と問答しなかったのか。」と聞きました。

 克契禅僧はまた、「お忙しいので、お邪魔したくなかったのです」と返事をしました。

 佛光禅師は「忙しいって、だれのために忙しいのか。私はあなたのために忙しくなりたいのだ。」と大声で克契禅僧をとがめました。

 克契禅僧は佛光禅師の「私はあなたのために忙しくなりたい。」という言葉に強く打たれ、直ちに悟りました。

 ある人たちは、自分のことばかり考えています。他人のことを考えず、ささいなことでも何度も他人の迷惑になります。一方、ある人は他人のことばかり考えています。自分を顧みようともしないので、何度もチャンスを失ってしまいます。禅の本当の意味は当下(とうか<現在、今>)である。食事の時は食べ、修道の時は修道し、聞く時はずばりと聞き、答える時は足下に答えるべきです。

「助けてあげようと思っているのに、なぜ断ったのですか。私は確かに忙しいですが、あなたのために時間を割くことは容易です。私は自他をはっきり区別する必要がありませんから(自分のためにすることと他人のためにすることとは同じように重要だ)」とその後、述べたということです


 

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