薬師殿(やくしでん)は大雄宝殿(だいおうほうでん)の後ろに位置します。霊隠寺の三境内にあり、1993年に再建された殿堂です。本殿は二重軒入母屋造(にじゅうのきいりもやづくり)の様式で、入口の広さが七間分で、長さが三間分あります。
薬師仏像(やくしぶつぞう)は殿堂内にまつられ、両側には日光菩薩(にっこうぼさつ)と月光菩薩(げっこうぼさつ)がおり、合わせて「東方三聖(とうほうさんせい)」あるいは「薬師三尊(やくしさんぞん)」と呼ばれます。
薬師仏は、「薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)」とも言われ、東方浄瑠璃世界の教主です。東方浄瑠璃世界は非常に殊勝荘厳で、あらゆるものが明るく清浄で、汚い所もなければ、三悪道もなく、人々の体と自然環境が西方極楽世界のように荘厳美妙です。薬師仏は菩薩道を行する時、十二の大願(だいがん)を立て、その七番目の願いに「病の者は、私の名前を聞けば患いが除かれる」とあるので、この仏を「薬師(やくし)」と呼ぶようになりました。二番目の願いに「仏になれば、体が清浄にして瑠璃の如く、光明が日や月よりも明るい」とあるので、「瑠璃光」と呼ばれるのです。
日光菩薩は、「日光遍照菩薩」あるいは「日曜菩薩」とも呼ばれ、薬師仏の左の脇侍(きょうじ<中心の仏の両脇につきそい立っている菩薩>)です。月光菩薩は、「月光遍照菩薩」あるいは「月浄菩薩」とも呼ばれ、薬師仏の右の脇侍です。東方浄瑠璃の国では、日光・月光の二菩薩が薬師仏の二人の補佐をするとともに、多くの菩薩の上位にあり、薬師仏の涅槃後、仏位を続補すると言われます。
本殿の左右両側には十二体の塑像があります。名前は「薬師十二神将」と呼ばれ、また「十二薬叉大将」あるいは「十二位保護神」とも呼ばれます。甲冑(よろいかぶと)に身を固め、威風堂々としています。十二神将は薬師如来の眷属で、『薬師経』を読む者を守護し、昼夜の十二時間、四季の十二か月、休むことなく人々を守護しています。十二神将とは、宮毘羅(くびら、黄色い宝杵を持つ)、伐折羅(ばさら、白い宝剣を持つ)、迷企羅(めきら、黄色い宝棒を持つ)、安底羅(あんちら、緑の宝錘を持つ)、額爾羅(あにら、紅い宝叉を持つ)、珊底羅(さんちら、黒い宝剣を持つ)、因達羅(いんだら、紅い宝棍を持つ)、波夷羅(はいら、紅い宝錘を持つ)、摩虎羅(まこら、白い宝斧を持つ)、真達羅(しんだら、黄色い宝索を持つ)、招杜羅(しょうとら、青い宝錘を持つ)、毘羯羅(びから、紅い宝輪を持つ) のことです。
薬師殿の横額(よこがく)の「薬師殿」の三文字は故中国仏教協会会長の趙朴初(ちょうぼくしょ)氏によって書かれたもので、書体がきちんとしていて、雄壮で力強い筆跡です。
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